【与那国】島の文化「花酒」を守り、島の個性を重んじる 日本最西端の酒造「崎元酒造所」
「崎元酒造所」の崎元俊男さんのストーリーを紹介します
日本最西端にある与那国島には3つの酒造所があり、その中でも一番古い酒造所が「崎元酒造所」です。 昭和2年に農業を本職とした17人の出資者が共同の酒造所を設立しましたが、昭和40年代に入ると出資者はわずか4人となっていたそうです。このままでは酒造所の崩壊とともに、島に残る「花酒文化」までも失いかねないということから、現在代表を務める崎元俊男さんの母・初さんが杜氏として名乗りを挙げたのが、崎元酒造所のはじまりでした。
先代が必死に守った与那国島の「花酒文化」とは?
稼業として伝統の味を繋いでいる崎元俊男さんに、与那国島の文化や歴史と切り離すことのできない泡盛の魅力をたっぷりとお伺いしました。
泡盛600年の歴史を伝承する製法にこだわる
崎元酒造所は、与那国島の集落・祖納(そない)を一望できる高台ティンダバナ(ティンダハナタ)の頂上近くにあります。
そそりたつ断崖絶壁や激しい荒波、一風変わった独特な地形。本島ではあまり見かけない風景は、なんだか異国に降り立ったようにも感じます。
崎元酒造は、大手の酒造メーカーとは違い、昭和42年に立ち上げた崎元俊男さんの母・初さんから息子の俊男さん、現在は2年前に島に戻ってきた長男の俊壱さん、最近島に戻ってきた次男の勇利さんと家族総出で家業として、泡盛造りに精を出しています。
また、一般的な蒸留所は蒸気の熱を利用して製造することが多いですが、ここでは今なお泡盛600年の歴史を伝承する昔ながらの古式地釜蒸留機を使用し、「地窯蒸留」を行っている数少ない酒造所です。
取材に訪れた時間帯は、ちょうど蔵人さんが何やら大きな地窯の前でかき混ぜている最中。
「人が米、麹、水を直接確かめて造る泡盛に徹しています。嗜好品はそれぞれの好みがあるでしょ。だからこそ機械じゃなくて手づくりにこだわるのがうちのやり方です。」
と俊男さん。
バーナーの火で直接加熱して蒸留した原酒は、モロミの香味成分が濃厚に留出され風味豊かな仕上がりになるんだとか。手間暇かけた分、風味と味わいの深い、美味しい泡盛へとつながるんですね。
与那国島と花酒の深い関係
蒸留時に最初に出てくるお酒が、アルコール度数60度の「花酒」となります。
与那国島での旅で間違いなく一番記憶に残ったお酒。
花酒は日本最西端の島、与那国島だけで製造されている蒸留酒(原料用アルコール、スピリッツ)です。(度数が強いため、酒税法上、泡盛ではなく原料用アルコール、スピリッツ扱いになるそうです)
※2021年4月より酒税法上の特例で酒のラベル表示で泡盛表示ができるようになりました。(酒税法上は原料用アルコール、スピリッツですが、泡盛と同じ原料、製造方法なので表示が認められました。)
花酒の文化について、俊男さんは次のように教えてくれました。
「昔、台湾から与那国にお酒をつくる技術が入ってきて、度数の高いアルコールは医薬品の代替品として使用されていました。そして次第に祭事ごとにも使わるようになったんです。沖縄本島と違い与那国島には火葬場が無い為、亡くなった人はお墓に埋葬するんです。その際、遺体と一緒にアルコール度数の強い花酒をお墓に入れる習慣がありました。
なぜ入れるかというと、7年後に、遺骨を洗う洗骨という儀式を行うんですね。遺骨を清めるために、お墓に入れておいた花酒を使ったんです。儀式の最後には遺骨に花酒をかけて焼き、遺灰にして、再びお墓に入れていました。花酒は、与那国島の人にとって祖先を敬う文化としても、なくてはならない特別な存在だったんです。」
初代の初さんはきっと、お酒と密接に関係のあった島の文化を守るべく、酒造りを必死に繋いでいたのではないでしょうか。そして、「これは昔の話」というわけではなく、今でも少数派ながら文化は根付いていると聞いて、この儀式すら知らなかった私たちには衝撃が走りました。
また、俊男さんいわく、原料は一緒、作り方も一緒だけど酒造所によって味が異なるのは、工場にすみつく「家付き麹菌」がいるから。泡盛の大きな魅力は、年月を重ねるほどに味わいがより芳醇で素晴らしい古酒に育っていくことです。気候や土地の特色になじみながら、熟成し味わいを変える泡盛。やはり、とても奥の深い地酒です。
島に自生するクバで泡盛の付加価値をつける
与那国島に多く自生するクバの葉は、昔から精霊が宿るといわれてます。崎元酒造所では、50年前からクバの葉を活用し、泡盛や花酒をクバ巻という手法で包み、販売しています。クバ巻もまた、与那国島が特許を持っている立派な文化です。クバの葉を丁寧に巻きつけた酒瓶は、存在感のある風情ある一本になります。
そのほかにも、にごり酒の「海波」、与那国島で島に自生する長命草を使った「長命草酒」や長命草焼酎蒸留後のもろみを搾ってろ過した「長命草酢」など、崎元酒造は新しい味にもどんどん挑戦し、多種多様な泡盛造りを行っているのが印象的でした。
崎元酒造の泡盛は、どこか優しくて甘さが香り立つ仕様に感じます。これは造りてのみなさんの優しさもエッセンスとして入っているのかもしれません。
最後に俊男さんにいいことを教えていただきました。
「花酒は凍りませんので、冷蔵庫でよく冷やした花酒を少しだけおちょこに注いでください。トロッとして濃厚な花酒の甘みや芳醇な香味が味わえますよ。」
これはさっそく試してみたい!
高い度数の泡盛は果実系のカクテルにも相性抜群。水割りやロックだけではなく、種類によって一番美味しい飲み方を研究してみませんか。
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■琉球泡盛製造工程(約5分)
https://youtu.be/jkdC5le4WVM
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