【伊江島】一度会ったら忘れられない。おじぃの想いと、海と月の恵みから生まれた塩「みーぐるましゅ」
「伊江島みーぐる工房」の古堅幸一さんのストーリーを紹介します。
美しい海に囲まれている島国沖縄は、日本有数の塩の産地です。ところが面白いもので、ひとくちに塩と言っても、塩のつくり方や、海水の塩分濃度や成分が地域によって異なるため、味わいは本当に様々。
伊江島出身の古堅幸一さん(通称みーぐるおじぃ)は、汲み上げた海水を平釜でじっくりと煮詰め、塩の結晶を生みだす、伝統的な平窯製法という手法で20年以上、塩をつくっています。
工房といえど、ほぼ外と言っても過言ではない環境で、その日の気温や風の様子を見て火加減を調整し、約30時間かけてじっくりと塩を炊きます。1トンもの海水から生みだされる塩は約17キロと極わずか。
デジタルな道具は一切使わない、まさに職人技。なぜ、こんなに手間暇かけて塩をつくりはじめるようになったのか。
きっかけは、島の老人がぽつりと言った「白い塩を見たことがない」という言葉でした。
塩をつくりはじめたきっかけ
「伊江島は、戦争が終わって二ヵ年もの間立ち入り禁止になり、食べ物は手に入るけど、塩が手に入らなかった。だったらつくってみようと思ったわけよ。」
焼けた肌に分厚い手、特徴の彫りの深い顔立ちのみーぐるおじぃは、トロール船に乗って何カ国も海外を渡航していた漁師でした。
一人の島民に白い塩を見せたいという想いで、漁師から転身。とはいえ、海に一番近い漁師でも、塩づくりに関しては全くの初心者。
まずは、粟国から能登まで様々な場所へ出向き、塩づくりの仕組みや流れを自分の目で確かめ、島に持ち帰るところからはじめました。
工房も平窯も塩もすべてDIY
なんと、塩を作るための工房や平窯は、すべてみーぐるおじぃの手づくり!コンクリートで固められ、鉄板で頑丈に覆われた立派な二段構造の窯は試行錯誤してたどり着いた形。
「え!この工房も全部ゼロからですか?」と目を疑う私たちに、「当り前よ!誰が作るねー。でも最初通りがかりの島民はおれが自分のお墓を作ってると思っていたみたいよ。」と笑うみーぐるおじぃ。言われてみたら確かに・・!
「あんたたちはタイミングがよかった!今、33時間煮込んでいるからちょうどできあがるころよ。水面に、ぷつぷつと穴ができはじめたら仕上がりの合図。俺の中ではカニの穴。大体96度くらいの温度がちょうどいい。」
いろいろな製法で試しましたが、火加減を調整できる平窯製法は、まろやかで繊細な塩を生みだせることがわかりました。
作業をするみーぐるおじぃも、見ている私たちの額にも、大粒の汗。
「天日干ししていないからにがりを含んでいるよ。辛いというよりも渋いでしょ。これがマグネシウムの味。」と奥様。
結晶化した塩は遠心分離器にかけ、完全ににがりが抜けて残った塩を天日干しにて手作業で選別し、約3週間かけて「伊江島みーぐるましゅ」が完成します。
たまたま本島から伊江島民泊に来ていた小学生のみんなも興味津々。みーぐるおじぃは、たまに小学校に遠征して塩づくり体験を開催しているそう。子どもにぜひ体験させたい!
満月と新月の海水だけを汲む、元漁師のこだわり
「俺は漁師だから旧暦で動く。こだわりは大潮だ。月二回、満月・新月の満潮時に船を出す。」
みーぐるおじぃが自分だけの塩づくりでこだわっているのは、海水を汲むタイミング。
自然のサイクルに合わせて動き、旬のものを収穫するように一番美味しい時期を見極めて自然の恵みを大切にします。
川のない伊江島の海水は、ほかの離島に比べて塩分濃度が濃く、マグネシウムやミネラル分が豊富(日本食品分析センターが調べた成分表を見てみると、みーぐるましゅのカルシウム量は、一般的な食塩の約4倍高い)。それに加えて漁師の知識と経験を活かし、独自の研究を重ねた結果、今では塩業界で定評のある師匠からもお墨付きをもらった、知る人ぞ知る「みーぐるましゅ」。
バランス抜群!素材の旨味をぐっと引き出す
取材後、奥様特製の塩麴でつくったスーチカーをいただきました。
塩だけを味見したときも、今まで食べてきたどんな塩よりも辛さを感じなかったのですが、料理に足すと味の違いが歴然です。
塩辛さを足すというよりも、ちょっと料理にかけるだけで素材の旨味をより感じる、というほうがしっくりときます。まさにバランス抜群の万能な塩!
「(塩づくりの)きっかけとなった島の老人は白い塩を見て泣いて喜んだ。次はね、島にある特産品を塩漬けして、商品化したい。あと、平窯はもうすぐ改修時期だから、今度は浜に窯を作って子どもたちに体験させたい。」と、止まることなくどんどん先を見据えるみーぐるおじぃ。
島民への想いから生まれ、新月と満月とおじぃのパワーを注ぎ、嘉例(カリー)が詰まったみーぐるましゅ。マース袋にいれてお守りにしたいくらいのエネルギーを感じたお塩、ぜひ一度お試しください。